パワーを与えてくれるものは、大切にしたい。

「こっちが、営業で必死に頑張ってるのに、悠長なものだな」
「金食い虫は、会社にとっては有害以外何者でもない」・・・

僕が25歳の時・・・今から何年前なんて、計算したく無いような、
その昔、僕に投げかけられた言葉だ。

当時、僕は、紀文の総務部付きで、
東京大学応用微生物研究所へ国内留学で派遣されていた。
これが、僕のバイオ研究者としての道を決定した。

派遣されて、1年も経っていなかった、冬の寒い夜。
当時の本部長であったS氏に夕食に誘われた。
新入りに近い僕にとっては、遙か彼方の地位にいる方からの誘いで、
妙に緊張したのを覚えている。
夕食の場所は、紀文グループが当時経営していた銀座のお寿司屋さんだ。
すべてが初めてのことだった。

冒頭に紹介した言葉は、この時、たまたま、カウンターに並んだ、
W営業部長が発した言葉だ。

「君かあ、東大に留学しているのは・・、何を今やっているの?」
そんな言葉でやり取りは始まった。
S氏とW氏は、同僚に近い関係だったのだろう。
その気安さからか、営業の最前線にいたW氏からは、
国内留学そのもの、研究開発そのもの・・・
などに批判的な発言が続いたのだった。

そうこうしているうちに、酔いも回ったのか、冒頭の発言が・・・。

僕は、悔しくて悔しくて、でも反論も出来なくて、カウンターで思わず涙してしまった。
S氏、カウンターの中の職人さんに慰められながら、その場を後にした。

W氏はその後、国際部長や海外子会社の社長を歴任して、出世街道をまっしぐら。
おそらく、W氏は、僕のことなど、覚えていなかったかも知れないが、
僕は、あの時の悔しさを胸に、頑張った・・・なんとしても、実績を残そうと。

W氏を見返したい!
営業部門から研究開発を見る目を変えさせたい!

・・・結局、2001年に紀文を退職するまでに、
それが、できたかどうかはわからないが、
W氏のあの言葉があったから、
約20年の紀文での研究生活が送れたのかも知れない。
W氏のあの言葉があったから、
底知れぬパワーが出たのかも知れない。

1週間前のこと・・・、紀文の退職者の集まりである、社友会から、
W氏の訃報を告げるFAXが流れてきた。
時代は巡る・・・、これからは、W氏が遠い空の彼方から、
厳しい言葉を投げかけてくれていることを信じて、
それをパワーにして頑張っていこうと思う。

  1. いいお話を拝見させていただきました。
    涙がでます。
    いつもの博士の謙虚さとパワーと底力。
    ただただ脱帽です。

    私なんかまだまだまだまだまだまだ・・だな。
    頑張ろう。←こればっかり 笑

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